[レポート]2日目:スタンフォード大学発のデザインイノベーションプロジェクトME310/SUGARに9ヶ月取り組んでみた結果[Report 02] ME310/SUGAR report in Stanford University

「どこかで見たことある」と冷めがちなのは、クラウドファンディングやSNSで”イノベーティブ”なプロジェクトが毎日紹介されているからだろうか。情報が溢れる日々の生活では、いつのまにか既視感が植え付けられ、不感症になっているのかもしれない。

スタンフォード大学以外の大学同士によるSUGARの成果発表会は、やたらと熱気に溢れ、どんなものでも寛容される雰囲気だ。すべての提案が褒められ、会場のテンションがやたらと高い。

プロジェクト開始から9ヶ月も経ち、すっかりとSUGARの雰囲気に慣れている学生たち。そんなSUGARの展示発表をレポートをします!
初日に行われたスタンフォード大学と他大学によるME310の成果発表会は下記のリンクからどうぞ。

[レポート]1日目: スタンフォード大学発のデザインイノベーションプロジェクトME310は「手を動かしながら、失敗しながら、前へ進む」ことを学ぶ学習環境だった



SUGARに参加しているチーム数はME310の倍以上

プレゼンテーションの開始は9:00から始まる。まだ時差ボケの抜けない僕は眠い目をこすりながら、発表会場のひとつであるStartXに到着した。StartXとは、スタンフォード大学が持つインキュベーション施設で、複数のベンチャー企業が入所している。I PEACEという日本人が中心のバイオ系ベンチャーも入っており、上場を目指してさまざまなベンチャーが日夜研究に取り組んでいるそうだ。そのStartXの1F入ってすぐの広い部屋と庭、ガレージを使って展示発表を行われる。ME310と同じく、午前中はプレゼンテーションで午後から展示発表だ。
しかし、発表会場がひとつだけではないことを僕はすっかりと忘れてしまっていた。ME310に参加していたチーム数は8つなのに対して、SUGARは19チームと倍以上なため、ひとつの会場に収まらない。そのため、プレゼンテーション会場が2つあり、午前中は他方で京都工芸繊維大学の学生ら3チームが発表することになっている。会場に到着するとひとつ目のチームがすでにプレゼンテーションを行っていた。
なお、ME310は講堂での発表だったのに対して、SUGARの発表会場はガレージのようなStartXと教室のような「Graduate Community Center」で行われた。講堂やd.schoolに比べたらちょっとキレイすぎるからだろうか、気持ち参加者の反応は薄い。ちなみに、京都工芸繊維大学以外の参加大学とスポンサー企業は下記の通りだ。

①San Francisco State University(アメリカ)☓University of Science and Technology of China(中国)☓IngDan(中国)
②Trinity College Dublin(アイルランド) ☓Pontificia Universidad Javeriana(イタリア)☓E3
③Polytechnic Institute of Porto(ポルトガル)☓University of Science and Technology of China(中国)☓IKEA Industry(スウェーデン)
④Trinity College Dublin(アイルランド)☓Karlsruhe Institute of Technology(ドイツ)☓Daimler(アメリカ)
⑤University of Science and Technology(中国)☓China Academy of Art(中国)☓IngDan(中国)
⑥Polytechnic Institute of Porto(ポルトガル)☓Warsaw University of Technology(ポーランド)☓Silampos(ポルトガル)
⑦Swinburne University of Technology(オーストラリア)☓Polytechnic Institute of Porto(ポルトガル)☓SONAE MC(ポルトガル)
⑧Polytechnic Institute of Porto(ポルトガル)☓Warsaw University of Technology(ポーランド)☓Sportzone(ポルトガル)
⑨Aalto University(フィンランド)☓Stanford University(アメリカ)☓Xylem(アメリカ)
⑩Unimore – Universidade de Módena e Reggio Emía (イタリア)☓d.school Paris(フランス)☓Bosch(ドイツ?)
⑪Aalto University(フィンランド)☓d.school Paris(フランス)☓Roland Garros(アメリカ)
⑫Linköping University(スウェーデン)☓University of São Paulo(ブラジル)
⑬San Francisco State University(アメリカ)☓University of Science and Technology of China(中国)☓IngDan
⑮Trinity College Dublin(アメリカ)☓University of São Paulo(ブラジル)☓Ubotica

京都工芸繊維大学☓d.scool Paris(フランス)取り組むのは、建材メーカーのTarkett(フランス)だ。高齢者向けのスマート床パネルについて発表を行っていた

京都工芸繊維大学☓Swinburne University of Technology(オーストラリア)は、ヤンマー株式会社のコーポーレートカラーである赤色のポロシャツで揃えている。テーマは「未来の水上アクティビティ」だそうだ

京都工芸繊維大学☓Unimore – Universidade de Módena e Reggio Emía(イタリア)も同じくスポンサー企業はヤンマー株式会社。イタリアも日本も地震による被害があったからか、与えられたテーマは、「災害(Disaster)」だ。感情に訴えかける、災害時の状況を朗読するプレゼンテーションだった

ヤンマー2組の発表を見守る事業創出部 企画部 企画グループ 専任部長 小山博幸さん(左)と中央研究所 パワートレイン研究部 エンジングループ 壽和輝さん(右)

本学から参加したチームで唯一、StarXでプレゼンテーションをする、Norwegian University of Science and Technology(スウェーデン)と取り組んだRenault(フランス)のプロジェクト。テーマは、自動操縦となった未来のスマートカーにおける内部空間だ


京都工芸繊維大学の学生らが取り組んだ4つのプロジェクト

プレゼンテーションが終われば、やたらと量の多いケータリングを頬張りながら展示の準備を行う。展示はStartXで行われる。d.schoolほど広くないが、別会場でプレゼンテーションを行っていたチームもこちらに合流し、StartXや周囲で働く方たちもたくさん訪れるため会場は賑わっている。
会場には実際のプロトタイプやフラッグ・ポスターなどがビジュアルコミュニケーションを促すものが掲示されているため、英語がそれほど流暢じゃない日本の学生たちも説明を楽しんでいるようだ。もう少しだけ4つのチームのプロジェクトを紹介していこう。

YANMAR – DISASTER

ヤンマーDISASTERチームは、災害時における「自宅難民向けのストレージキット」を提案。食料だけでなく情報や電源などの供給を可能とするキットを地域ごとに設置する。避難所と離れた場所で生活を余儀なくされる小さな子を持つシングルファミリーへのインタビューが提案に繋がった



フタを開けるとモニターや掲示板、ストレージボックスなどを取り出すことができる。地震だけでなく、さまざまな災害時に利用されることを期待している

YANMAR – WATER

まるで水上のセグウェイのようなプロトタイプを制作したヤンマーWATERチーム。体の傾きに合わせてモーターが動き、自由に動き回れる、ようになるそうだ。というのも、ギリギリまでセッティングを行ったが電子回路のエラーが取れず今展示では乗ったらどうなるかのみを試すことに。それでもたくさんの人がボードに乗って楽しんでいた

SUGARでの展示では、モーターユニットの調整やジャイロ機構が機能しなかったが、帰国後に大学で行う展示に向けて再度調整するそうなので動作する状況を見てみたい

Tarkett

Tarkettチームはタッチセンサーが仕込まれたスマート床パネルを高齢者が生活するホーム向けに展開。感圧センサーがスマートフォンに生活者の情報を送ったり、スタッフが使いやすいように煩雑な管理パネルのUIを視覚的にデザインし直している

本学の学生も含めてエンジニアで構成されたTarkettチーム。スポンサー企業のニーズがダイレクトに求められていたが、先進的高齢化社会を迎えている日本で福祉発のイノベーションを考えることは重要だ。欧州の多様性とは異なる視点で、今後の展開も考えられる

Renault

自動運転とシェアリングエコノミーが当たり前となった世界のシナリオづくりに取り組んだルノーチームの提案は、物理的にも情報的にも車内の安全性を高めることだ。画像認識やスマートデバイスなど複数のモニタリングシステムを構築。ユーザーだけでなく、サービスプロバイダーの不安解消にも役立つ仕組みとなっている


会場には実際にルノー車が置かれ、タッチパネルや天井に仕込まれたセンサーの稼働を体験することができた。アメリカではUberなどで相乗りが当たり前のように行われているが、ドライバーという立場がいなくなったときの安心はどうやって担保できるのかを考えた提案だ


スタンフォード大学発のデザインイノベーションプロジェクトに9ヶ月取り組んでみた結果

9ヶ月間に渡るME310/SUGARプロジェクトから、学生たちはさまざまなことを学んでと話す。それはME310/SUGARが最も大切にしている「手を動かしながら考える」ことの大切さだけではない。文化や文脈が異なる異国間同士でプロジェクトを進めていくためのコミュニケーション、機械や電子情報とデザインという異なる分野の集団として取り組む段取りなど。決して英語が得意だったわけじゃない、グループワークが得意だったわけじゃない、スポンサー企業の顔色を伺っていたこともあった。しかし、この国際的なプロジェクトに参加して最後まで力を振り絞ったことで、成し遂げた自信と自覚的となった課題を克服しようと進むチャレンジ精神を身に着けていた。
こうした成長はなにも学生だけではない。学生らの活動を温かくも厳しい目で見守っていた、ヤンマー株式会社の小山さんは、「企業がこのプロジェクトに参加することの成果は3つあります。1つは、学生たちとのやり取りから社内に『デザイン思考』という考え方が広がること。次に、学生たちが行った膨大な『生のリサーチデータ』を手に入れること。そして最後に、先行開発品として『実験的なプロトタイプ』を受け取ることです」と話す。壽さんはテーマ設定の難しさを感じたそうだ。「WATERに比べ、DISASTERは社内でも目指す方向が不安定でした。それが学生にも伝わってしまい、明確なコンセプトが見えてきたのはプロジェクトの終盤。ただ課題を与えるだけではなく、企業側も学生と並走するために準備が必要なのだと分かりました」。
「日本のデザイン学生は最後の粘りがすごい。」と評価するのは、プロジェクトを統括するスシ准教授だ。これまで各国でME310のサポートをしてきた経験を振り返ると、「日本と比べると欧米の学生は議論しながらも淡々と進めています。そのため、どこかで見たことがあるようなものになる収まるケースも見られます。良くも悪くも京都工芸繊維大学の学生たちは、コミュニケーションに時間を割く傾向にありますが、最後3週間の追い込みでこのクオリティまで仕上げてくるのはさすが」だと、その集中力を評価していた。
9ヶ月間のプロジェクトを通じて成長した学生。留学や海外で働くことも含めて次のステージへと向かっていく姿は非常に頼もしいものがあった。帰国後はすぐに本学での展示と次年度の説明会、また東京ギャラリーでの展示を控えている。あまりゆっくりすることはできないかもしれないが、互いの努力を労い、疲れを癒やして欲しい。そして、また次の場所で活躍に期待したい。

なお、2017年7月13日には京都工芸繊維大学内にて成果発表会と次期の参加者募集に向けた説明会を行う予定だ。なんと、次期からは、ME310/SUGARプロジェクトが共通科目として扱われることになり、デザイン、建築、情報学科以外でも参加しやすくなっている。ぜひともこの機会に、領域横断的に取り組むプロジェクトに参加してもらいたい。

スシ准教授自ら最後まで学生の展示をサポートしていた

ヤンマーWATERチームがいないが、SUGARのフラッグを持った集合写真。ヤンマーWATERチームは、会場撤収後すぐに発送しないといけないものが多数あり、会場を離れていたのだった

展示物を前にWATERチームの集合写真。ヤンマーのロゴをハンドサインでするはずがなぜか「かめはめ波」をしているイタリアの学生

学内最終報告会 + 2017-2018期 参加説明会
会場:京都工芸繊維大学60周年記念館1階記念ホール
日時:2017年7月13日[木] 18:00-20:00 (17:30開場、14:00からデモ展示あり)
※京都工芸繊維大学が取り組んだ4プロジェクトの発表・展示、および次期参加者募集の説明を行います。

ME310/SUGAR 2016-2017 プロジェクト成果展示
会場:KYOTO Design Lab 東京ギャラリー
会期:2017年7月26日[水] – 9月1日[金] 12:00-19:00
休廊:月曜日・火曜日
※京都工芸繊維大学が取り組んだ4プロジェクトの展示


ライター紹介: 浅野 翔
1987年生まれ。2011年、京都工芸繊維大学造形工学課程 建築コース卒業。2014年、同大学大学院デザイン経営工学専攻 環境デザイン経営コース修了。同年よりデザインリサーチャー、サービスデザイナーとして活動を始め、2017年よりKYOTO Design Labのパブリケーション・マネージャーを務める。

Coming soon…

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