古くなった衣類や繊維製品で、楽器をつくる。そんな発想から生まれたプロジェクトが、京都工芸繊維大学で動き出している。素材はカーペットやコットンなどの繊維廃材。それを樹脂と混ぜてペレット状に加工し、3Dプリンタで楽器の形へと仕上げていく。こうした研究成果は、2025年に「繊維リサイクル技術研究会(第157回情報交換会)」や「一般社団法人日本繊維機械学会 第78回年次大会」でも報告された。材料科学、デザイン、デジタルファブリケーション、そして音楽と教育——異なる領域を持つ研究者たちが、なぜ「廃材から楽器をつくる」という実践に集まったのか。本プロジェクトに携わる木村照夫(京都工芸繊維大学名誉教授)、奥林里子(京都工芸繊維大学 繊維学系教授)、井上智博(京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 技術専門職員)の3名に話を伺った。

Photo © 京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab

 

「楽しくなければ続かない」——プロジェクトの原点

木村:私は30年以上にわたり、繊維廃材のリサイクルに関わってきました。大学で研究と教育を続ける中で、技術的には成立していても、コストや社会実装の壁によって実用化に至らない事例を多く見てきました。これは日本に限らず、世界共通の課題だと思います。

そうした経験から、最近強く感じるようになったのが、「楽しくなければ続かない」ということです。最終的な実用性や市場性をいったん脇に置き、まずは純粋に面白いものづくりをやってみようと考えました。私自身、バイオリンを少し弾くのですが、廃材からバイオリンが作れたら面白いのではないかという思いつきが、このプロジェクトの原点です。現在は音楽好きのメンバーが集まりバンドとしても活動していて、毎年イベントを開いて少しずつ廃材由来の楽器に置き換えています。将来はすべて廃材の楽器で演奏したい、というのが夢です。

加えて今回は、完成された成果物を示すこと以上に、異なる分野の人が関わりながら試行錯誤できる「研究の場」をつくること自体を、一つの研究テーマとして捉えています。プロダクトの完成度だけでなく、研究の進め方そのものを意識的に設計し直そうとしています。

木村照夫|京都工芸繊維大学名誉教授。同志社大学大学院博士後期課程単位取得退学後、福井大学、京都工芸繊維大学で教育・研究に従事。2001年に(一社)日本繊維機械学会に繊維リサイクル技術研究会を発足させ、多くのネットワークを通じて繊維リサイクルシステム構築等の活動を行う。

 

繊維廃材を形にする、3Dプリンタと素材の実験

井上:技術的な観点で言うと、これまで扱ったことのない素材に挑戦できる点が大きな魅力でした。繊維廃材をそのまま加工して楽器にするのは難しいのですが、生地と樹脂が混ざったペレット状(粒状)の素材にすることで、射出成形やペレット式3Dプリンタによる成形が可能になります。

D-labにはペレット式3Dプリンタがあるため、デザインしたデータをそのまま出力し、すぐに形と音を確認できる環境があります。材料、デザイン、音のフィードバックを短いサイクルで往復できる点は、研究としても非常に面白いと感じました。

井上智博|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 技術専門職員。デジタルファブリケーションを専門とし、3Dプリンタ、3Dスキャナなどの最先端設備を活用したものづくりの実践・支援を担う。

 

奥林:ペレットに含まれる繊維の種類や含有量、母材となる樹脂の違いによって、成形後の密度や剛性が変わります。それが結果として音の立ち上がりや響き方に影響している可能性があります。材料科学の立場から見ても、非常に興味深いテーマだと感じています。

加えて、素材によって収縮の挙動も異なります。繊維を含有させることで収縮が抑えられる可能性があり、成形精度や寸法安定性への影響という点でも、今後検討すべき材料科学的な課題の一つです。

従来の楽器研究では木材が中心でしたが、繊維系廃材を含む複合材料が音にどのような特性をもたらすのか、同じ繊維系素材同士でも音響特性に違いが生じるのか——そうした点を体系的に調べていくことが、今後の大きなテーマになると考えています。

奥林里子|京都工芸繊維大学 繊維学系教授。専門は高分子・繊維材料の機能加工。超臨界二酸化炭素や放射線照射を用いて、繊維や高分子材料に耐久性の高い機能を付与する研究に取り組む。

 

井上:実際にプロトタイプをつくってみると、同じ形状データを使っても、素材が違うだけで重量も音もまったく変わります。積層ピッチ(3Dプリンタが素材を積み重ねる間隔)や積層方向によっても音が変化するため、見た目の造形だけでなく、「演奏するための構造」として積層をどうデザインするかが重要になってきました。

同じ条件で再現することが難しく、一度で正解に辿り着くことはほとんどありません。プロトタイプをつくり、音を確かめ、設計に戻るという往復を繰り返しながら、材料・デザイン・音響を横断した実験を続けています。

 

材料科学・デザイン・音楽、分野を越えた実践

木村:このプロジェクトは、環境問題、材料科学、ものづくり、音楽、さらには教育までを横断しています。例えば、子どもたちと一緒に楽器をつくり、最後に演奏するという体験は、単なる工作や音楽教育ではなく、複数の領域が交差する学びになります。

奥林:リサイクルという観点でも、このプロジェクトには大きな意義を感じています。私がこれまで取り組んできたテーマは、サーキュラーマテリアル(循環型素材)やゼロエミッション(廃棄物ゼロ)です。廃棄物をゼロに近づけるためには、衣類から衣類へのリサイクルだけでなく、多様な用途への展開が不可欠です。その一つとして、音の出る楽器という応用は非常にユニークで、研究の裾野を広げる可能性を秘めていると思っています。

研究の進め方という点でも、一つの専門分野だけで完結するものではありません。材料評価、音響特性の分析、デザイン条件の検討など、異なる専門が並行して関わっています。音を性能だけでなく体験として捉える視点も含め、複数の立場が関わることで理解が深まっていくと感じています。

井上:プロダクト開発に近い形で進められる点も、この研究の特徴だと思います。実際に形あるものができることで、研究者以外の人も議論に参加しやすくなります。完成形を決めすぎず、関わる人によってプロジェクトの輪郭が変わっていく。その柔軟さが、分野横断型の研究にとって重要だと感じています。

 

学校へ、地域へ、社会へ

木村:将来的には大学内の研究にとどまらず、小中学校での授業やワークショップ、地域での活動へと広げていきたいと考えています。子どもたちが実際に廃材の楽器に触れ、自分で作り、最後にみんなで演奏する——そうした体験を通じて、環境問題とものづくりと音楽が一つにつながる新しい学びの場が生まれると思っています。技術的な完成度を高めると同時に、教育や社会の中でどう機能するかを検証していくことが、次の段階です。廃材から生まれた楽器が奏でる音が、やがて多くの人に届く日を目指しています。

古くなった衣類や繊維製品で、楽器をつくる。そんな発想から生まれたプロジェクトが、京都工芸繊維大学で動き出している。素材はカーペットやコットンなどの繊維廃材。それを樹脂と混ぜてペレット状に加工し、3Dプリンタで楽器の形へと仕上げていく。こうした研究成果は、2025年に「繊維リサイクル技術研究会(第157回情報交換会)」や「一般社団法人日本繊維機械学会 第78回年次大会」でも報告された。材料科学、デザイン、デジタルファブリケーション、そして音楽と教育——異なる領域を持つ研究者たちが、なぜ「廃材から楽器をつくる」という実践に集まったのか。本プロジェクトに携わる木村照夫(京都工芸繊維大学名誉教授)、奥林里子(京都工芸繊維大学 繊維学系教授)、井上智博(京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 技術専門職員)の3名に話を伺った。

Photo © 京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab

 

「楽しくなければ続かない」——プロジェクトの原点

木村:私は30年以上にわたり、繊維廃材のリサイクルに関わってきました。大学で研究と教育を続ける中で、技術的には成立していても、コストや社会実装の壁によって実用化に至らない事例を多く見てきました。これは日本に限らず、世界共通の課題だと思います。

そうした経験から、最近強く感じるようになったのが、「楽しくなければ続かない」ということです。最終的な実用性や市場性をいったん脇に置き、まずは純粋に面白いものづくりをやってみようと考えました。私自身、バイオリンを少し弾くのですが、廃材からバイオリンが作れたら面白いのではないかという思いつきが、このプロジェクトの原点です。現在は音楽好きのメンバーが集まりバンドとしても活動していて、毎年イベントを開いて少しずつ廃材由来の楽器に置き換えています。将来はすべて廃材の楽器で演奏したい、というのが夢です。

加えて今回は、完成された成果物を示すこと以上に、異なる分野の人が関わりながら試行錯誤できる「研究の場」をつくること自体を、一つの研究テーマとして捉えています。プロダクトの完成度だけでなく、研究の進め方そのものを意識的に設計し直そうとしています。

木村照夫|京都工芸繊維大学名誉教授。同志社大学大学院博士後期課程単位取得退学後、福井大学、京都工芸繊維大学で教育・研究に従事。2001年に(一社)日本繊維機械学会に繊維リサイクル技術研究会を発足させ、多くのネットワークを通じて繊維リサイクルシステム構築等の活動を行う。

 

繊維廃材を形にする、3Dプリンタと素材の実験

井上:技術的な観点で言うと、これまで扱ったことのない素材に挑戦できる点が大きな魅力でした。繊維廃材をそのまま加工して楽器にするのは難しいのですが、生地と樹脂が混ざったペレット状(粒状)の素材にすることで、射出成形やペレット式3Dプリンタによる成形が可能になります。

D-labにはペレット式3Dプリンタがあるため、デザインしたデータをそのまま出力し、すぐに形と音を確認できる環境があります。材料、デザイン、音のフィードバックを短いサイクルで往復できる点は、研究としても非常に面白いと感じました。

井上智博|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 技術専門職員。デジタルファブリケーションを専門とし、3Dプリンタ、3Dスキャナなどの最先端設備を活用したものづくりの実践・支援を担う。

 

奥林:ペレットに含まれる繊維の種類や含有量、母材となる樹脂の違いによって、成形後の密度や剛性が変わります。それが結果として音の立ち上がりや響き方に影響している可能性があります。材料科学の立場から見ても、非常に興味深いテーマだと感じています。

加えて、素材によって収縮の挙動も異なります。繊維を含有させることで収縮が抑えられる可能性があり、成形精度や寸法安定性への影響という点でも、今後検討すべき材料科学的な課題の一つです。

従来の楽器研究では木材が中心でしたが、繊維系廃材を含む複合材料が音にどのような特性をもたらすのか、同じ繊維系素材同士でも音響特性に違いが生じるのか——そうした点を体系的に調べていくことが、今後の大きなテーマになると考えています。

奥林里子|京都工芸繊維大学 繊維学系教授。専門は高分子・繊維材料の機能加工。超臨界二酸化炭素や放射線照射を用いて、繊維や高分子材料に耐久性の高い機能を付与する研究に取り組む。

 

井上:実際にプロトタイプをつくってみると、同じ形状データを使っても、素材が違うだけで重量も音もまったく変わります。積層ピッチ(3Dプリンタが素材を積み重ねる間隔)や積層方向によっても音が変化するため、見た目の造形だけでなく、「演奏するための構造」として積層をどうデザインするかが重要になってきました。

同じ条件で再現することが難しく、一度で正解に辿り着くことはほとんどありません。プロトタイプをつくり、音を確かめ、設計に戻るという往復を繰り返しながら、材料・デザイン・音響を横断した実験を続けています。

 

材料科学・デザイン・音楽、分野を越えた実践

木村:このプロジェクトは、環境問題、材料科学、ものづくり、音楽、さらには教育までを横断しています。例えば、子どもたちと一緒に楽器をつくり、最後に演奏するという体験は、単なる工作や音楽教育ではなく、複数の領域が交差する学びになります。

奥林:リサイクルという観点でも、このプロジェクトには大きな意義を感じています。私がこれまで取り組んできたテーマは、サーキュラーマテリアル(循環型素材)やゼロエミッション(廃棄物ゼロ)です。廃棄物をゼロに近づけるためには、衣類から衣類へのリサイクルだけでなく、多様な用途への展開が不可欠です。その一つとして、音の出る楽器という応用は非常にユニークで、研究の裾野を広げる可能性を秘めていると思っています。

研究の進め方という点でも、一つの専門分野だけで完結するものではありません。材料評価、音響特性の分析、デザイン条件の検討など、異なる専門が並行して関わっています。音を性能だけでなく体験として捉える視点も含め、複数の立場が関わることで理解が深まっていくと感じています。

井上:プロダクト開発に近い形で進められる点も、この研究の特徴だと思います。実際に形あるものができることで、研究者以外の人も議論に参加しやすくなります。完成形を決めすぎず、関わる人によってプロジェクトの輪郭が変わっていく。その柔軟さが、分野横断型の研究にとって重要だと感じています。

 

学校へ、地域へ、社会へ

木村:将来的には大学内の研究にとどまらず、小中学校での授業やワークショップ、地域での活動へと広げていきたいと考えています。子どもたちが実際に廃材の楽器に触れ、自分で作り、最後にみんなで演奏する——そうした体験を通じて、環境問題とものづくりと音楽が一つにつながる新しい学びの場が生まれると思っています。技術的な完成度を高めると同時に、教育や社会の中でどう機能するかを検証していくことが、次の段階です。廃材から生まれた楽器が奏でる音が、やがて多くの人に届く日を目指しています。