デジタルによって設計されたプロセスを、粘土という不確定な素材で実体化する――《Generative Tectonics: コードと土の対話》は、コードによる生成と人間の判断、そして素材との対話を往復しながら、再現可能な制作プロセスを探るプロジェクトである。
Advanced Ceramic Studioのメンバーによるトークイベント「SIGGRAPH Asia 2025 展示報告会」では、SIGGRAPH Asia 2025 Art Galleryに出展した本プロジェクトの、設計から制作に至るまでのプロセスが紹介された。本記事では、当日のトークの流れに沿いながら、その思考と実践をたどる。
堀川淳一郎[KYOTO Design Lab 特任研究員]※オンライン登壇
井上智博[KYOTO Design Lab 技術専門職員]
登尾育海[KYOTO Design Lab 特任研究員]
岩見遙果[KYOTO Design Lab 特任研究員]

プロセスを設計する――データと生成
前半では、堀川淳一郎特任研究員から、プロジェクト全体の構成と設計プロセスが紹介された。アルゴリズムによる形状生成とAIによる色設計を軸に、コードによる生成と人間の判断をどのように組み合わせているのかが解説された。
かたちを生成する
堀川:本日は、SIGGRAPH Asia 2025のArt Galleryに出展した「Generative Tectonics: コードと土の対話」という作品について報告します。この作品は、全部で50枚のセラミックタイルからなる壁面作品で、それぞれを3Dプリントで制作しています。展示では一つの壁面として見せていますが、一枚一枚はすべて異なる形状になっています。
このプロジェクトは約1年半をかけて進めてきたものです。プロシージャルデザインの手法を用いてセラミック3Dプリンターで陶器を制作するワークショップから始まり、その後、パラメトリックデザインを用いてセラミックタイルを制作する国際学会CAADRIA 2025のワークショップを経て、最終的にSIGGRAPH Asiaでの展示へと至りました。

SIGGRAPH Asia 2025での展示風景
本プロジェクトは大きく三つの要素で構成されており、一つ目がHoudiniを用いた形状生成、二つ目がAIと物理モデルによる色設計、三つ目がクレイ3Dプリンターによる造形です。
まず形状については、コードを使って生成しています。50枚分の複雑な形状を人間が一枚ずつ設計するのは現実的ではないので、コードでパターンを生成し、それを人間が見て選ぶという方法を取っています。コードが探索し、人間が選ぶ、という分業です。この方法であれば、人間の直感からは出てこないような組み合わせも含めて検討できるため、結果として設計の幅が広がると考えています。
今回の形状は、枝分かれするようなパターンをベースにしています。最初にランダムに起点を置き、そこから再帰的に分岐させていくことで、有機的な形状を生成しています。その上で、それを50枚のタイルに分割し、全体では連続したパターンになるようにしています。一枚一枚は独立していますが、全体として一つの壁面を構成する仕組みになっています。

パラメータによる形態生成から制作データ生成までの設計プロセス(当日のプレゼン資料より)
色の再現性を探る
堀川:色の話は少し性質が異なります。釉薬は基本的に経験に依存しているので、狙った色を高い再現性で出すことがかなり難しいんです。同じ配合でつくっているつもりでも、焼成条件やそのときの湿度によって結果が変わってしまうため、「これをすればこの色になる」という関係をなかなか固定できません。そこで今回は、自然言語から色のパレットを生成し、それを物理モデルによって釉薬の配合へ変換する仕組みをつくっています。

釉薬の色設計システム(当日のプレゼン資料より)
ただ、実際にやってみると、やはりズレが出てきます。完全に予測できるというよりは、「ある程度この方向にいく」というレンジで捉える必要があると感じています。焼成条件や環境の影響をどのように扱うかが今後の課題です。
このプロジェクトで一番大事にしているのは、再現性です。単に作品をつくるというよりも、他の人が同じプロセスを再現できる状態をつくることを目指しています。設計から製造までを、できるだけデータでつないでいくことを意識しています。

トークイベント会場に展示された釉薬実験サンプル
プロセスを実装する――素材と制作
後半では、井上智博技術専門職員から、クレイ3Dプリンターによる造形を例に、粘土の調整や乾燥工程など、データだけでは制御できない素材との向き合い方が紹介された。データとして定義された条件と、実際の素材のふるまいとのあいだに生じるズレを、どのように調整しながら制作に反映していくのかが解説された。
素材を制御する
井上:ここからは、データをどのように実際のものにしていくか、という話になります。今回使っているのは、エアーコンプレッサー式のクレイ3Dプリンターです。粘土は一般的な陶芸用のものを使っています。ただ、そのままでは再現性を確保できないので、一度すべて乾燥させて粉にし、そこから水と添加剤を加えて練り直しています。一度リセットするというか、毎回同じ状態からスタートできるようにしている、という感覚です。そうしなければ、そのときどきで粘土の状態が変わり、結果が揃わなくなってしまいます。
工程としては、出力、乾燥、素焼き、施釉、本焼成という流れで、一枚につきおよそ10日かかります。粘土は失敗しても再び使えるので、その点では扱いやすい素材だと感じています。

制作工程(当日のプレゼン資料より)
粘土の調整はかなり重要で、シャモットとベントナイトを加えています。シャモットは乾燥時の反りを抑えるためのもので、ベントナイトは流動性を高めるためのものです。ただ、このバランスがとても難しい。ベントナイトを加えると出力は安定しますが、入れすぎると形を保てず、崩れてしまいます。水も同じで、減らしすぎると出力できず、多すぎると今度は自重で潰れてしまう。そのちょうどよい状態を毎回探っている、という状況です。
乾燥と歪みに向き合う
井上:一番大変だったのは、乾燥の工程です。出力がうまくいっても、乾燥によってすべて駄目になる、ということを何度も繰り返しました。最初は出力がうまくいけばそのまま完成まで進められると思っていたのですが、乾燥の段階になるとまったく異なる挙動をするため、そこでかなりつまずきました。
今回のタイルは、片面が平らで、もう片面が複雑な形状になっているため、乾き方が均一にならず、すぐに歪んでしまいます。最初は立てたまま乾かしていたのですが、それではすべて曲がってしまうので、生乾きの状態で一度寝かせ、そこから湿度をコントロールしながら、ゆっくり乾かすようにしました。どのタイミングで寝かせるか、どの程度湿度を保つかといった条件もかなりシビアで、少し違うだけで結果が変わってしまいます。そのあたりは、試しながら調整していきました。

乾燥工程(当日のプレゼン資料より)
色を再現する
井上:施釉の工程でも、できるだけ条件を揃えられるよう工夫しています。本来、釉薬は土灰や藁灰、長石などを組み合わせて調整できますが、変数が多くなりすぎるため、今回は市販の基礎釉(3号釉)をベースに、色材の配合によって色をつくっています。配合比が少し変わるだけでも仕上がりが変わるので、0.01グラム単位で計量しながら調整しています。
また、今回は一枚ごとに異なる色を施す必要があったため、ドブ漬けや筆塗りではなく、スプレーガンによる塗布を採用しました。均一に塗布できる一方で、塗布方法に応じて釉薬の水分量も調整する必要があります。データどおりの色を実現するためには、こうした工程でも一つひとつ条件を検証しながら進めていくことが欠かせません。

スプレーガンによる釉薬の塗布(当日のプレゼン資料より)
座談会
発表後には、Advanced Ceramic Studioのメンバーによるディスカッションが行われた。データと素材の関係、制作における人間の役割、そして再現性というテーマをめぐって議論が交わされた。
井上:プラスチックの3Dプリントとは異なり、粘土はかなり繊細です。実際に扱ってみると、水分量や練り方のわずかな違いによって、挙動が大きく変わります。同じ条件で出力しているつもりでも、結果には微妙な差が生じます。その差をどのように扱うかが、常に課題になっていると思います。
堀川:機械だけで完結するというよりも、人間があいだに入り、機械と素材をつないでいるような状態だと思います。

堀川淳一郎|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 特任研究員。幾何学や自然の生態をヒントに、アルゴリズムを利用したさまざまな形態生成を研究。本プロジェクトでは、プロジェクト全体の企画・設計を担当するとともに、AI・物理モデルを用いた釉薬色設計システムの開発を行う。
井上:そうした側面はかなり強いです。完全に自動化されているというよりは、人間が介在することで成立しているプロセスになっています。乾燥の工程も同じで、同じように置いていても、空気の流れや湿度の違いによって結果が変わります。その場の状況を見ながら調整する必要があるため、どうしても身体的な作業になります。デジタルファブリケーションではありますが、かなり身体的なプロセスだと感じています。

井上智博|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 技術専門職員。デジタルファブリケーションを専門とし、3Dプリンターや3Dスキャナなどの先端設備を活用したものづくりの実践・支援を行う。本プロジェクトでは、クレイ3Dプリンターによる造形プロセスの設計・制作を担当し、粘土の調整や乾燥・焼成を含む一連の工程を担う。
登尾:僕らが今やっていることの先には、その何倍もの広がりがあると思っています。現在は一つ一つデバッグしている状態で、目の前のことを検証しながら進めていますが、その先にある展開の方がむしろ大きいのではないかという感覚があります。何か気になることがあれば、「これも影響しているのではないか」といったレベルでもよいので、とにかく試してみる。井上さんと一緒に、すぐにやってみるという進め方をしています。
ロボットアームを使えば、もっと大規模に展開できるのではないかという話もありますが、一番ストレートな答えとしては、まだハードルが高いということになります。ロボットアームは、やはり扱える人が限られていますし、価格の面でもハードルが高い。企業が導入する場合でも、セラミックのためだけに産業用ロボットを1台導入することは、現実的ではないケースが多いと思います。
僕らが使っているような機材であれば、コンプレッサーを含めても数十万円程度で導入できますし、Gコードが書ければ扱えるという点でも、ハードルは低い。素材である粘土も安価です。素材にどのようにアプローチするかという観点から、扱いやすい機械を選んでいます。卓上で扱えるからこそ、手を出せる人が多い。その意味で、こうしたアプローチはパッケージ化しやすいのではないかと感じています。

登尾育海|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 特任研究員。建築ロボティクスを専門とし、モーションキャプチャやロボットアームなどの先端技術を活用した左官技能の保存・継承を研究。本プロジェクトでは、クレイ3Dプリンターによる造形プロセスの制作・検証を担当。
岩見:今の話はかなり重要だと感じています。粘土を3Dプリンターで出力することの合理性というか、そもそも、どのようなものをつくるための手法なのか、という問いにつながっていると思います。粘土という非常にローテクな素材を機械で出力し、そのあいだに人間が介在しているという構造があります。プラスチックの3Dプリントとは異なり、素材が非常に繊細に反応します。例えば、人間の手が湿っているとか、油分があるとか、そうした要素も含めて結果に影響してきます。
その過程で、人間の存在そのものに気づかされるような感覚があります。それほど繊細な作業になっています。デジタルファブリケーションという枠組みの中で、機械と人間の関係や、人間の振る舞いそのものを問い直すプロセスにもなり得ると思います。そうした点についても、チームの中で議論しながら進めています。

岩見遙果|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 特任研究員。環境材料やリサイクル技術を専門とし、コンピュテーショナルデザインやグラフィックデザインに関するプロジェクトに取り組む。本プロジェクトでは、リーフレットやポスターなどのグラフィック・展示デザインを担当するとともに、制作全般をサポートする。
堀川:作品をつくること自体が目的というよりも、その背後にあるプロセスや判断を共有するための形式として作品がある、という位置づけです。そのため、思考の過程も含めて記録し、他者と共有するためのドキュメントづくりを重視しています。
最終的に最も重要だと考えているのは、再現性です。特に僕たちは、アーティストとしての表現を目指しているわけでもなく、これによって利益を上げることを目的としているわけでもありません。どちらかというと、このプロセスを見た他の研究者や実践者が、それをもとに再現できるような状態をつくることが重要だと考えています。
デジタルによって設計されたプロセスを、粘土という不確定な素材で実体化する――《Generative Tectonics: コードと土の対話》は、コードによる生成と人間の判断、そして素材との対話を往復しながら、再現可能な制作プロセスを探るプロジェクトである。
Advanced Ceramic Studioのメンバーによるトークイベント「SIGGRAPH Asia 2025 展示報告会」では、SIGGRAPH Asia 2025 Art Galleryに出展した本プロジェクトの、設計から制作に至るまでのプロセスが紹介された。本記事では、当日のトークの流れに沿いながら、その思考と実践をたどる。
堀川淳一郎[KYOTO Design Lab 特任研究員]※オンライン登壇
井上智博[KYOTO Design Lab 技術専門職員]
登尾育海[KYOTO Design Lab 特任研究員]
岩見遙果[KYOTO Design Lab 特任研究員]

プロセスを設計する――データと生成
前半では、堀川淳一郎特任研究員から、プロジェクト全体の構成と設計プロセスが紹介された。アルゴリズムによる形状生成とAIによる色設計を軸に、コードによる生成と人間の判断をどのように組み合わせているのかが解説された。
かたちを生成する
堀川:本日は、SIGGRAPH Asia 2025のArt Galleryに出展した「Generative Tectonics: コードと土の対話」という作品について報告します。この作品は、全部で50枚のセラミックタイルからなる壁面作品で、それぞれを3Dプリントで制作しています。展示では一つの壁面として見せていますが、一枚一枚はすべて異なる形状になっています。
このプロジェクトは約1年半をかけて進めてきたものです。プロシージャルデザインの手法を用いてセラミック3Dプリンターで陶器を制作するワークショップから始まり、その後、パラメトリックデザインを用いてセラミックタイルを制作する国際学会CAADRIA 2025のワークショップを経て、最終的にSIGGRAPH Asiaでの展示へと至りました。

SIGGRAPH Asia 2025での展示風景
本プロジェクトは大きく三つの要素で構成されており、一つ目がHoudiniを用いた形状生成、二つ目がAIと物理モデルによる色設計、三つ目がクレイ3Dプリンターによる造形です。
まず形状については、コードを使って生成しています。50枚分の複雑な形状を人間が一枚ずつ設計するのは現実的ではないので、コードでパターンを生成し、それを人間が見て選ぶという方法を取っています。コードが探索し、人間が選ぶ、という分業です。この方法であれば、人間の直感からは出てこないような組み合わせも含めて検討できるため、結果として設計の幅が広がると考えています。
今回の形状は、枝分かれするようなパターンをベースにしています。最初にランダムに起点を置き、そこから再帰的に分岐させていくことで、有機的な形状を生成しています。その上で、それを50枚のタイルに分割し、全体では連続したパターンになるようにしています。一枚一枚は独立していますが、全体として一つの壁面を構成する仕組みになっています。

パラメータによる形態生成から制作データ生成までの設計プロセス(当日のプレゼン資料より)
色の再現性を探る
堀川:色の話は少し性質が異なります。釉薬は基本的に経験に依存しているので、狙った色を高い再現性で出すことがかなり難しいんです。同じ配合でつくっているつもりでも、焼成条件やそのときの湿度によって結果が変わってしまうため、「これをすればこの色になる」という関係をなかなか固定できません。そこで今回は、自然言語から色のパレットを生成し、それを物理モデルによって釉薬の配合へ変換する仕組みをつくっています。

釉薬の色設計システム(当日のプレゼン資料より)
ただ、実際にやってみると、やはりズレが出てきます。完全に予測できるというよりは、「ある程度この方向にいく」というレンジで捉える必要があると感じています。焼成条件や環境の影響をどのように扱うかが今後の課題です。
このプロジェクトで一番大事にしているのは、再現性です。単に作品をつくるというよりも、他の人が同じプロセスを再現できる状態をつくることを目指しています。設計から製造までを、できるだけデータでつないでいくことを意識しています。

トークイベント会場に展示された釉薬実験サンプル
プロセスを実装する――素材と制作
後半では、井上智博技術専門職員から、クレイ3Dプリンターによる造形を例に、粘土の調整や乾燥工程など、データだけでは制御できない素材との向き合い方が紹介された。データとして定義された条件と、実際の素材のふるまいとのあいだに生じるズレを、どのように調整しながら制作に反映していくのかが解説された。
素材を制御する
井上:ここからは、データをどのように実際のものにしていくか、という話になります。今回使っているのは、エアーコンプレッサー式のクレイ3Dプリンターです。粘土は一般的な陶芸用のものを使っています。ただ、そのままでは再現性を確保できないので、一度すべて乾燥させて粉にし、そこから水と添加剤を加えて練り直しています。一度リセットするというか、毎回同じ状態からスタートできるようにしている、という感覚です。そうしなければ、そのときどきで粘土の状態が変わり、結果が揃わなくなってしまいます。
工程としては、出力、乾燥、素焼き、施釉、本焼成という流れで、一枚につきおよそ10日かかります。粘土は失敗しても再び使えるので、その点では扱いやすい素材だと感じています。

制作工程(当日のプレゼン資料より)
粘土の調整はかなり重要で、シャモットとベントナイトを加えています。シャモットは乾燥時の反りを抑えるためのもので、ベントナイトは流動性を高めるためのものです。ただ、このバランスがとても難しい。ベントナイトを加えると出力は安定しますが、入れすぎると形を保てず、崩れてしまいます。水も同じで、減らしすぎると出力できず、多すぎると今度は自重で潰れてしまう。そのちょうどよい状態を毎回探っている、という状況です。
乾燥と歪みに向き合う
井上:一番大変だったのは、乾燥の工程です。出力がうまくいっても、乾燥によってすべて駄目になる、ということを何度も繰り返しました。最初は出力がうまくいけばそのまま完成まで進められると思っていたのですが、乾燥の段階になるとまったく異なる挙動をするため、そこでかなりつまずきました。
今回のタイルは、片面が平らで、もう片面が複雑な形状になっているため、乾き方が均一にならず、すぐに歪んでしまいます。最初は立てたまま乾かしていたのですが、それではすべて曲がってしまうので、生乾きの状態で一度寝かせ、そこから湿度をコントロールしながら、ゆっくり乾かすようにしました。どのタイミングで寝かせるか、どの程度湿度を保つかといった条件もかなりシビアで、少し違うだけで結果が変わってしまいます。そのあたりは、試しながら調整していきました。

乾燥工程(当日のプレゼン資料より)
色を再現する
井上:施釉の工程でも、できるだけ条件を揃えられるよう工夫しています。本来、釉薬は土灰や藁灰、長石などを組み合わせて調整できますが、変数が多くなりすぎるため、今回は市販の基礎釉(3号釉)をベースに、色材の配合によって色をつくっています。配合比が少し変わるだけでも仕上がりが変わるので、0.01グラム単位で計量しながら調整しています。
また、今回は一枚ごとに異なる色を施す必要があったため、ドブ漬けや筆塗りではなく、スプレーガンによる塗布を採用しました。均一に塗布できる一方で、塗布方法に応じて釉薬の水分量も調整する必要があります。データどおりの色を実現するためには、こうした工程でも一つひとつ条件を検証しながら進めていくことが欠かせません。

スプレーガンによる釉薬の塗布(当日のプレゼン資料より)
座談会
発表後には、Advanced Ceramic Studioのメンバーによるディスカッションが行われた。データと素材の関係、制作における人間の役割、そして再現性というテーマをめぐって議論が交わされた。
井上:プラスチックの3Dプリントとは異なり、粘土はかなり繊細です。実際に扱ってみると、水分量や練り方のわずかな違いによって、挙動が大きく変わります。同じ条件で出力しているつもりでも、結果には微妙な差が生じます。その差をどのように扱うかが、常に課題になっていると思います。
堀川:機械だけで完結するというよりも、人間があいだに入り、機械と素材をつないでいるような状態だと思います。

堀川淳一郎|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 特任研究員。幾何学や自然の生態をヒントに、アルゴリズムを利用したさまざまな形態生成を研究。本プロジェクトでは、プロジェクト全体の企画・設計を担当するとともに、AI・物理モデルを用いた釉薬色設計システムの開発を行う。
井上:そうした側面はかなり強いです。完全に自動化されているというよりは、人間が介在することで成立しているプロセスになっています。乾燥の工程も同じで、同じように置いていても、空気の流れや湿度の違いによって結果が変わります。その場の状況を見ながら調整する必要があるため、どうしても身体的な作業になります。デジタルファブリケーションではありますが、かなり身体的なプロセスだと感じています。

井上智博|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 技術専門職員。デジタルファブリケーションを専門とし、3Dプリンターや3Dスキャナなどの先端設備を活用したものづくりの実践・支援を行う。本プロジェクトでは、クレイ3Dプリンターによる造形プロセスの設計・制作を担当し、粘土の調整や乾燥・焼成を含む一連の工程を担う。
登尾:僕らが今やっていることの先には、その何倍もの広がりがあると思っています。現在は一つ一つデバッグしている状態で、目の前のことを検証しながら進めていますが、その先にある展開の方がむしろ大きいのではないかという感覚があります。何か気になることがあれば、「これも影響しているのではないか」といったレベルでもよいので、とにかく試してみる。井上さんと一緒に、すぐにやってみるという進め方をしています。
ロボットアームを使えば、もっと大規模に展開できるのではないかという話もありますが、一番ストレートな答えとしては、まだハードルが高いということになります。ロボットアームは、やはり扱える人が限られていますし、価格の面でもハードルが高い。企業が導入する場合でも、セラミックのためだけに産業用ロボットを1台導入することは、現実的ではないケースが多いと思います。
僕らが使っているような機材であれば、コンプレッサーを含めても数十万円程度で導入できますし、Gコードが書ければ扱えるという点でも、ハードルは低い。素材である粘土も安価です。素材にどのようにアプローチするかという観点から、扱いやすい機械を選んでいます。卓上で扱えるからこそ、手を出せる人が多い。その意味で、こうしたアプローチはパッケージ化しやすいのではないかと感じています。

登尾育海|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 特任研究員。建築ロボティクスを専門とし、モーションキャプチャやロボットアームなどの先端技術を活用した左官技能の保存・継承を研究。本プロジェクトでは、クレイ3Dプリンターによる造形プロセスの制作・検証を担当。
岩見:今の話はかなり重要だと感じています。粘土を3Dプリンターで出力することの合理性というか、そもそも、どのようなものをつくるための手法なのか、という問いにつながっていると思います。粘土という非常にローテクな素材を機械で出力し、そのあいだに人間が介在しているという構造があります。プラスチックの3Dプリントとは異なり、素材が非常に繊細に反応します。例えば、人間の手が湿っているとか、油分があるとか、そうした要素も含めて結果に影響してきます。
その過程で、人間の存在そのものに気づかされるような感覚があります。それほど繊細な作業になっています。デジタルファブリケーションという枠組みの中で、機械と人間の関係や、人間の振る舞いそのものを問い直すプロセスにもなり得ると思います。そうした点についても、チームの中で議論しながら進めています。

岩見遙果|京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 特任研究員。環境材料やリサイクル技術を専門とし、コンピュテーショナルデザインやグラフィックデザインに関するプロジェクトに取り組む。本プロジェクトでは、リーフレットやポスターなどのグラフィック・展示デザインを担当するとともに、制作全般をサポートする。
堀川:作品をつくること自体が目的というよりも、その背後にあるプロセスや判断を共有するための形式として作品がある、という位置づけです。そのため、思考の過程も含めて記録し、他者と共有するためのドキュメントづくりを重視しています。
最終的に最も重要だと考えているのは、再現性です。特に僕たちは、アーティストとしての表現を目指しているわけでもなく、これによって利益を上げることを目的としているわけでもありません。どちらかというと、このプロセスを見た他の研究者や実践者が、それをもとに再現できるような状態をつくることが重要だと考えています。