保存再生学特別研究会「文化遺産におけるAuthenticityとIntegrityの本質を考える」

趣旨説明
田原幸夫(京都工芸繊維大学)

「世界遺産会議における議論から見えるもの」
稲葉信子(筑波大学)

「20世紀建築遺産における新たなる視点」
山名善之(東京理科大学)

「文化遺産における文化的景観という概念」
清水重敦(京都工芸繊維大学)

1992年、日本がユネスコ世界遺産条約に加盟した時から、文化遺産の評価基準であるAuthenticity(オーセンティシティ)という概念が、日本の文化財の世界にも導入された。さらに1994年の世界文化遺産奈良会議において起草された「奈良ドキュメント」は、それまで西欧中心の概念であったAuthenticityを、日本も含む世界の文化遺産共通の評価基準とすべく議論を重ねた結果の歴史的成果であり、Authenticityの概念はここで大きく拡大されることになった。そして21世紀を迎えた今、かつてはユネスコ自然遺産における評価基準であったIntegrity(インテグリティ)なる概念が、文化遺産の評価基準としても適用されるようになり、世界の文化遺産の評価軸はますます複雑化している。これは世界の国々の文化的・歴史的・風土的多様性に加え、20世紀建築や産業施設といった、かつては文化遺産の範疇の外にあったものが、続々と文化遺産の仲間入りをしている現代の状況を反映した結果である。さらには文化的景観という新たな分野が、文化遺産の世界に仲間入りしてきたこととも無関係ではない。
しかしここには大きな課題が横たわっている。そもそも日本語には存在しなかったAuthenticity さらにはIntegrityという概念が、ユネスコ世界遺産条約というものを契機に日本にも導入された結果、複雑な現代の状況の中で、言葉の一人歩きが始まりつつあるのではないかという懸念である。世界遺産条約への加盟にあたって国内でも相当な議論が積み重ねられたAuthenticityという概念については、現在まで多くの情報が発信され、専門家の間でも比較的コンセンサスは得られてきたと考えられるが、現在のより大きな問題はIntegrityについてである。そもそも世界遺産条約発効5年後の1977年、パリでのガイドライン検討会議において、文化遺産の評価理念として既にIntegrityという概念が提示されており、最終的にAuthenticityが採用されたものの、この二つの概念についての議論はいまだ終わっていないとも考えられるのである。AuthenticityとIntegrityは、文化遺産の評価においてどれほど異なる概念なのだろうか。そして我々は日本人として、この二つの言葉の意味する本質をどれだけ理解しているのだろうか。この大きな課題に取り組まずして21世紀の保存再生学は成立しない。

鉄筋コンクリート建造物の保存と活用:モダニズム建築の保存活用の成果と課題
日時:2017年2月4日(土)13:30-
会場:京都工芸繊維大学60周年記念館2階大セミナー室
定員:90名(先着順、入場無料)
主催:京都工芸繊維大学大学院建築学専攻
   京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab

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Symposium: Conservation and Practical Use of Modern Heritage Meaning of Authenticity and Integrity


Professor Nobuko Inaba [Tsukuba University]
Professor Yoshiyuki Yamana [Tokyo University of Sciense]
Professor Shigeatsu Shimizu[Kyoto Institute of Technology]

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