Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbers
Text: 木内俊克 [京都工芸繊維大学 未来デザイン・工学機構 特任准教授]


Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersは、解体木材を含む非規格材のもつ個別でばらばらな材の魅力を引き出しつつ、構造耐力を担わせ、一般的な木造工事の中で取り扱うことを可能にするデザイン/加工/組み立てシステムを提案する。3Dスキャニングにより取得した非規格材一本一本の3Dデータにより、100年近い材齢の古材から直近の規格材まで、寸法・ねじれ・形・特徴が異なる材同士の接合部加工が一つのプログラム上で処理される。加工は機械切削を核に、手刻みでも対応可能な仕様とし、在来木造工法への部分的な組み込みを目指している。

提案の核は、部材同士を芯からややずらした状態で組むことで、最低限のかみ合わせで材同士の応力伝達を担保する接合部の考え方だ。かみ合わせを浅くすることは、機械切削でクリティカルになる加工量を最小化すると同時に、非規格材の材長や表情をそのままに部材化することを可能にする。高い構造耐力をもつ3本組みの3 Way Joint [img-1]、2本のみで一定の耐力を保持する2 Way Joint [img-2]、伝統的な金輪継ぎを機械切削可能に発展させたBeam to Beam Joint [img-3]とも、くさびにより部材同士を圧接、高い耐力を保持し、同時に非規格材に付随する不規則な変形や誤差を吸収する。

同接合部を起点に、それを成り立たせるシステム全体の提案が本プロジェクトのターゲットとなる。


[img-1] 3 Way joint

[img-2] 2 Way Joint

[img-3] Beam to Beam Joint

既存木造の生産サイクルへの適応的介入

Reclaimed Timbersとは、通常は解体木材や仮設資材など、一度別用途で使われていた木材をリユースの目的で収集した材のことを指すが、ここでは販売経路にのらない間伐材など、ウッドチップや燃料にしかならなかったものに建材用途を与え再生したものも含めた非規格材の総称として用いる。

Reclaimed Timbersの利活用に向けては、

  1. まず材自体をどう回収・保管し、流通させるか
  2. 次にいかに材の個別性把握の為にデジタル化するか
  3. デジタル化により、個別な材をどう効率的に管理しては設計対象に割り当てるか
  4. 一か所ずつ異なる接合部形状をどう設計するか
  5. デジタル管理しつつも手加工から機械加工までの選択肢をいかに柔軟に担保するか

といった複合的なレベルの取り組み [img-4]が求められる。

本プロジェクトでは、これら一連の要請を個別に取り扱うことのできる小プロジェクトに分割し、各小プロジェクトごとのノウハウを相互に活用し合える相互連携のかたちを構築しようとしている。

なお《Case-1 中庭の藤棚》プロジェクトでは、2023年5月-8月の4か月間で集中的に5つの現場から解体木材を回収、固有のID・マーカーにより管理した。長短含め計約300点。比較的短い材は模型・部分モック・構造実験に用い、断面で105角相当程度以上・2~4.5m付近から46本、90角程度・1.5m以下で25本を藤棚に採用した。


[img-4] 既存木造の生産サイクルへの適応的介入

《Case-1 中庭の藤棚》

Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersの実地的な検証を行うプロトタイプとして、大学中庭に設置する藤棚建設の機会を得た。重要な検証点として、

  1. 構造的な自立の実現(接合部の構造実験による構造的ふるまいと耐力の把握、接合部配置ロジックの検証)
  2. 組み立てプロセスにおける制約条件の把握と意匠的な影響範囲の確認
  3. 加工時間の把握と妥当な加工量におさえる意匠設計の実践

の三点をかかげた。解体木材は京都内外の近郊で同時期に進行していた5つの現場から廃棄予定となっていた材を入手した。

Aの接合部については、構造実験により十分な耐力を確認し、また接合部の典型的な破壊過程についても知見を得た。Bの組立については、柱芯ごとにくさび配置を統一することで、複数接合箇所にまたがる部材でも設置不可能な箇所はなかったが、Beam to Beam jointと3Way/2Way jointなどタイプの異なる接合部が一つの材内に併存する際には、接合部をはめ込む際の移動の向きの異なりに注意を要することが確認された。Cの加工時間については、合計74本の材加工を累計35日間程度で実施し、長大材の運搬・旋盤加工サポートなど、作業単位で一時的に複数人数で対応する必要があったとき以外は機械切削には一人の担当がついて作業をカバーした。


[img-5] 中庭の藤棚 南側より構造全体を望む(Photo©Yosuke Ohtake)

[img-6] 中庭の藤棚 接合部詳細(Photo©Yosuke Ohtake)

[img-7] 中庭の藤棚 平面図

[img-8] 中庭の藤棚 断面図

システムの社会実装へ

Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersのプロジェクトは、《Case-1 中庭の藤棚》でのプロトタイプ建設を経て、いよいよ本格的な社会実装に向けた複合的なシステム開発に段階を進めている。

今秋から2025年度以降にかけての大きな4つの軸として、

  • 3Dスキャニングプロセスの中規模化/高速化[2024.09~]
  • 非規格材の構造性能検証[2025年度~]
  • デザイン/加工/組み立てシステムのオープンソース化[2025年度~]
  • Case-2 一本柱と片持ち棚[2025年度~]

らの小プロジェクトを立ち上げ、それぞれ各分野の専門家、研究者、及び地域社会のステークホルダーとの協働のかたちを取ったシステム開発を予定している。

個別のプロジェクトはそれぞれ単体でも産業への適用や研究価値が認められる取り組みではあるが、解体木材を含む非規格材活用という軸をとおして相互にそのノウハウを参照し、連携可能な仕組みを意図することで、より高いインパクトをもった社会への働きかけが実現できると考える。

《3Dスキャニングプロセスの中規模化/高速化》[2024.09~]

《Case-1 中庭の藤棚》では、解体木材の3Dスキャニングをフォトグラメトリという多数の写真から3Dモデルを構築する方法を採用し、

  • 1本ごとの材撮影プロセスの自動化
  • 撮影された写真からの3Dモデル構築プログラムの自動化
  • 生成された3Dモデルのサイズ微調整やノイズ除去プロセスの自動化

といった3Dスキャニングプロセスの効率化に取り組んだ。 [img-9]

写真から3Dモデルを立ち上げるフォトグラメトリの強みは、特別な機材環境がなくても実行できる手法であることから、汎用的に一般の工務店でも採用可能な安価なアプローチである点が挙げられ、上述のプロセスの効率化についても高額な機材を要しないという点で一貫した考え方で組み立てられている。

また《Case-1 中庭の藤棚》をとおして、1本ずつでの3Dモデル化においては非規格材の機械切削に求められるレベルの十分な精度担保とシステムの安定性が確認されており、次なるステップとして、同プロセスを中規模化/高速化する糸口となる多数本をまとめたかたちでの3Dスキャニングへの取り組み [img-9]が2024年9月から開始されている。


[img-9] 3Dスキャンの手法:上段が《Case-1 中庭の藤棚》での取り組み、下段が2024年9月からの試みの模式図

《非規格材の構造性能検証―接合部の検証から非規格材そのものの検証へ》[2025年度~]

《Case-1 中庭の藤棚》では、プロトタイプ建設に使用した解体木材の中からランダム抽出した材を用いた、接合部の構造実験を実施した。構造実験では、

  • くさびの入れ方には方向性があり、向きによって強度差がある
  • くさび形状によっては、接合部での木材の割れが発生しやすい
  • 材と材の接合面には、局部的に加工して精度を担保した面同士のみにより構成することで耐力が高まる
  • 以上を勘案することで、伝統構法相当以上の耐力が期待できる

ことが確認され、プロトタイプ建設においても、以上のフィードバックを受けての改良版で接合部とくさびが制作された。今後のモニタリングにより継続的に変形の推移は確認していく。

一方、解体木材を含む非規格材の構造利用における大きな課題として、非規格材そのものの構造性能をいかに把握するかという点が残されている。そこで3Dスキャンにより形状把握さえ行うことができれば、欠損部や特殊部をもつ解体木材の形状も勘案し、非破壊で材の強度推定を行うことを可能にする機械学習を次のターゲットとして見据えた研究が予定されている。 [img-10]


[img-10] 構造検証:欠損部の検出手続きイメージ、接合部耐力の把握実験、非破壊での解体木材強度推定の仮説

《デザイン/加工/組み立てシステムのオープンソース化》[2025年度~]

Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersのデザイン/加工/組み立てシステムで検証したノウハウを、他プロジェクトでも利活用可能なかたちにしていく為には、実際にチーム外の設計者がプログラムにアクセスして、比較的容易に利用できる体制を構築する必要がある。具体的には、

  1. 3Dスキャンした材のスキャンデータをCSVフォーマットのリストと紐づけて管理する
  2. 構造モデルへのスキャンデータの割り当てを行う手続きを標準化し、何を気にしてどのような調整を行えばよいかを一定の型に沿って記述して変数として記録できる仕組みをつくる
  3. また一本一本の材調整をCSVフォーマットに紐づけることで設計対象全体の管理についても一括して行う
  4. 設計が完了した後に個別の材加工の際にこれらの管理情報をいつでも呼び出しては、加工に利用できるかたちとする

ことをシステム化の手続きとして取り組んだ。 [img-11]

そこで2025年度以降、一連の手続きのパッケージ化をさらに外部の利用者を想定して進め、デジタルデザインの先駆的試みが盛んに取り組まれているスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)が提供するオープンソースプラットフォームCOMPASへの公開を第一ステップとして、システムの共有知化を模索している。


[img-11] 部材管理・位置調整・接合部生成及び加工に際しての呼び出しシステム

《Case-2 一本柱と片持ち棚―現場手加工と機械切削の融合、地域内資材循環へ》[2025年度~]

2024年度8月末の大学内プロトタイプ建設を経て、2025年度にはしぼり丸太で知られた北山杉の産地でもある京都市北区の山間部、北山の集落に位置する北山ホールセンターでの小さな軒先改装の試みが予定されている。

本建物の軒先は、中間期には周辺の山の眺望を眺めつつ屋外作業できる絶好の場だが、既存下屋の廊下部分だけでは作業場として不十分であり、また作業に必要な物資が軒下に溜まっている状況を緩和する為、作業場の拡張と活動を邪魔しない天井収納の増設を計画した。柱/基礎数を限定し、水平面はすべて柱から持ち出す片持ち棚で構成した。 [img-12]


[img-12] 一本柱と片持ち棚:図面(左上)、パース(右上)、地域資源からの材料群イメージ(下)

Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersのシステム開発の観点から重要なトピックは二点。
一点目は改装で必須となる現場加工をいかに工場での機械切削と統合するかであり、ここでは未熟練工でも丸太の現場加工を実現できるようなARでの支援・可搬ロボットアームによる現場加工を検討している。接合部形状は、現状でも機械切削と手刻みの双方を想定した形状で検討されているが、具体的な支援の過程で接合部自体のより細かな検証も実施する。 [img-13]

二点目は地域内の資材循環の試みだ。解体木材の利活用では、大規模な倉庫保管や広域流通を伴うほど、対象は価格帯の高価な材に限定されていく。ここでは、地域内にだぶついているストック材、増え続ける空き家の解体木材でも中サイズのものに対象をしぼり、具体的な資材調達の実践をとおして、地域内での中小規模の資材循環に付随する課題と利点を明らかにする


[img-13] 機械加工と手加工のハイブリッド

設計
木内俊克、バルナ・ゲルゲイ・ベーター、戸村陽、岩見遙果、近藤誠之介、西村穏(以上、京都工芸繊維大学)
基本設計・モックアップ製作
Cowen Phoebe Columbine、柏木裕太、近藤誠之介、松嶋和伽、西村穏、大橋海斗、芝氏大樹、Vom Stein Laura Tabita、Marianna Angelini、Leona Borkeloh、Mathieu Gourbeyre、松本茜、Oliver Nicol、Yan Przybyszewski、Edin Smajic、Jonas Stappers、谷口愛理(以上、2023年度京都工芸繊維大学スタジオ修了学生)
中庭マスタープラン設計
長坂大(京都工芸繊維大学)、京都工芸繊維大学長坂研究室
構造実験協力
満田衛資、村本真、澤井伸吾(以上、京都工芸繊維大学)、京都工芸繊維大学構造系研究室
部材3Dスキャン
バルナ・ゲルゲイ・ペーター、西村穏、岩見遙果(以上、京都工芸繊維大学)
設計協力
本間智希(北山舎)
構造設計協力
満田衛資(京都工芸繊維大学)、京都工芸繊維大学構造系研究室
動画撮影
駒井涼(KOMA)
部材加工・建て方
木内俊克、バルナ・ゲルゲイ・ペーター、岩見遙果、水谷泰平、中原稜将、近藤誠之介、西村穏(以上、京都工芸繊維大学)、岩田裕里(SCI-Arc)
2023年度京都工芸繊維大学スタジオ共同指導
Matthias Kohler, Fabio Gramazio、Daniela Mitterberger、Jonas Haldeman (以上、ETH Zurich)
2023年度京都工芸繊維大学スタジオ技術協力
Thomas William Lee (Aarhus School of Architecture)
2023年度京都工芸繊維大学スタジオテクニカルレビュー
Ng Charmaine(京都工芸繊維大学)
機材協力・敷地点群データ提供
京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab
解体木材提供
魚谷繁礼建築研究所施主、本間智希(北山舎)

Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbers
Text: 木内俊克 [京都工芸繊維大学 未来デザイン・工学機構 特任准教授]


Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersは、解体木材を含む非規格材のもつ個別でばらばらな材の魅力を引き出しつつ、構造耐力を担わせ、一般的な木造工事の中で取り扱うことを可能にするデザイン/加工/組み立てシステムを提案する。3Dスキャニングにより取得した非規格材一本一本の3Dデータにより、100年近い材齢の古材から直近の規格材まで、寸法・ねじれ・形・特徴が異なる材同士の接合部加工が一つのプログラム上で処理される。加工は機械切削を核に、手刻みでも対応可能な仕様とし、在来木造工法への部分的な組み込みを目指している。

提案の核は、部材同士を芯からややずらした状態で組むことで、最低限のかみ合わせで材同士の応力伝達を担保する接合部の考え方だ。かみ合わせを浅くすることは、機械切削でクリティカルになる加工量を最小化すると同時に、非規格材の材長や表情をそのままに部材化することを可能にする。高い構造耐力をもつ3本組みの3 Way Joint [img-1]、2本のみで一定の耐力を保持する2 Way Joint [img-2]、伝統的な金輪継ぎを機械切削可能に発展させたBeam to Beam Joint [img-3]とも、くさびにより部材同士を圧接、高い耐力を保持し、同時に非規格材に付随する不規則な変形や誤差を吸収する。

同接合部を起点に、それを成り立たせるシステム全体の提案が本プロジェクトのターゲットとなる。


[img-1] 3 Way joint

[img-2] 2 Way Joint

[img-3] Beam to Beam Joint

既存木造の生産サイクルへの適応的介入

Reclaimed Timbersとは、通常は解体木材や仮設資材など、一度別用途で使われていた木材をリユースの目的で収集した材のことを指すが、ここでは販売経路にのらない間伐材など、ウッドチップや燃料にしかならなかったものに建材用途を与え再生したものも含めた非規格材の総称として用いる。

Reclaimed Timbersの利活用に向けては、

  1. まず材自体をどう回収・保管し、流通させるか
  2. 次にいかに材の個別性把握の為にデジタル化するか
  3. デジタル化により、個別な材をどう効率的に管理しては設計対象に割り当てるか
  4. 一か所ずつ異なる接合部形状をどう設計するか
  5. デジタル管理しつつも手加工から機械加工までの選択肢をいかに柔軟に担保するか

といった複合的なレベルの取り組み [img-4]が求められる。

本プロジェクトでは、これら一連の要請を個別に取り扱うことのできる小プロジェクトに分割し、各小プロジェクトごとのノウハウを相互に活用し合える相互連携のかたちを構築しようとしている。

なお《Case-1 中庭の藤棚》プロジェクトでは、2023年5月-8月の4か月間で集中的に5つの現場から解体木材を回収、固有のID・マーカーにより管理した。長短含め計約300点。比較的短い材は模型・部分モック・構造実験に用い、断面で105角相当程度以上・2~4.5m付近から46本、90角程度・1.5m以下で25本を藤棚に採用した。


[img-4] 既存木造の生産サイクルへの適応的介入

《Case-1 中庭の藤棚》

Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersの実地的な検証を行うプロトタイプとして、大学中庭に設置する藤棚建設の機会を得た。重要な検証点として、

  1. 構造的な自立の実現(接合部の構造実験による構造的ふるまいと耐力の把握、接合部配置ロジックの検証)
  2. 組み立てプロセスにおける制約条件の把握と意匠的な影響範囲の確認
  3. 加工時間の把握と妥当な加工量におさえる意匠設計の実践

の三点をかかげた。解体木材は京都内外の近郊で同時期に進行していた5つの現場から廃棄予定となっていた材を入手した。

Aの接合部については、構造実験により十分な耐力を確認し、また接合部の典型的な破壊過程についても知見を得た。Bの組立については、柱芯ごとにくさび配置を統一することで、複数接合箇所にまたがる部材でも設置不可能な箇所はなかったが、Beam to Beam jointと3Way/2Way jointなどタイプの異なる接合部が一つの材内に併存する際には、接合部をはめ込む際の移動の向きの異なりに注意を要することが確認された。Cの加工時間については、合計74本の材加工を累計35日間程度で実施し、長大材の運搬・旋盤加工サポートなど、作業単位で一時的に複数人数で対応する必要があったとき以外は機械切削には一人の担当がついて作業をカバーした。


[img-5] 中庭の藤棚 南側より構造全体を望む(Photo©Yosuke Ohtake)

[img-6] 中庭の藤棚 接合部詳細(Photo©Yosuke Ohtake)

[img-7] 中庭の藤棚 平面図

[img-8] 中庭の藤棚 断面図

システムの社会実装へ

Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersのプロジェクトは、《Case-1 中庭の藤棚》でのプロトタイプ建設を経て、いよいよ本格的な社会実装に向けた複合的なシステム開発に段階を進めている。

今秋から2025年度以降にかけての大きな4つの軸として、

  • 3Dスキャニングプロセスの中規模化/高速化[2024.09~]
  • 非規格材の構造性能検証[2025年度~]
  • デザイン/加工/組み立てシステムのオープンソース化[2025年度~]
  • Case-2 一本柱と片持ち棚[2025年度~]

らの小プロジェクトを立ち上げ、それぞれ各分野の専門家、研究者、及び地域社会のステークホルダーとの協働のかたちを取ったシステム開発を予定している。

個別のプロジェクトはそれぞれ単体でも産業への適用や研究価値が認められる取り組みではあるが、解体木材を含む非規格材活用という軸をとおして相互にそのノウハウを参照し、連携可能な仕組みを意図することで、より高いインパクトをもった社会への働きかけが実現できると考える。

《3Dスキャニングプロセスの中規模化/高速化》[2024.09~]

《Case-1 中庭の藤棚》では、解体木材の3Dスキャニングをフォトグラメトリという多数の写真から3Dモデルを構築する方法を採用し、

  • 1本ごとの材撮影プロセスの自動化
  • 撮影された写真からの3Dモデル構築プログラムの自動化
  • 生成された3Dモデルのサイズ微調整やノイズ除去プロセスの自動化

といった3Dスキャニングプロセスの効率化に取り組んだ。 [img-9]

写真から3Dモデルを立ち上げるフォトグラメトリの強みは、特別な機材環境がなくても実行できる手法であることから、汎用的に一般の工務店でも採用可能な安価なアプローチである点が挙げられ、上述のプロセスの効率化についても高額な機材を要しないという点で一貫した考え方で組み立てられている。

また《Case-1 中庭の藤棚》をとおして、1本ずつでの3Dモデル化においては非規格材の機械切削に求められるレベルの十分な精度担保とシステムの安定性が確認されており、次なるステップとして、同プロセスを中規模化/高速化する糸口となる多数本をまとめたかたちでの3Dスキャニングへの取り組み [img-9]が2024年9月から開始されている。


[img-9] 3Dスキャンの手法:上段が《Case-1 中庭の藤棚》での取り組み、下段が2024年9月からの試みの模式図

《非規格材の構造性能検証―接合部の検証から非規格材そのものの検証へ》[2025年度~]

《Case-1 中庭の藤棚》では、プロトタイプ建設に使用した解体木材の中からランダム抽出した材を用いた、接合部の構造実験を実施した。構造実験では、

  • くさびの入れ方には方向性があり、向きによって強度差がある
  • くさび形状によっては、接合部での木材の割れが発生しやすい
  • 材と材の接合面には、局部的に加工して精度を担保した面同士のみにより構成することで耐力が高まる
  • 以上を勘案することで、伝統構法相当以上の耐力が期待できる

ことが確認され、プロトタイプ建設においても、以上のフィードバックを受けての改良版で接合部とくさびが制作された。今後のモニタリングにより継続的に変形の推移は確認していく。

一方、解体木材を含む非規格材の構造利用における大きな課題として、非規格材そのものの構造性能をいかに把握するかという点が残されている。そこで3Dスキャンにより形状把握さえ行うことができれば、欠損部や特殊部をもつ解体木材の形状も勘案し、非破壊で材の強度推定を行うことを可能にする機械学習を次のターゲットとして見据えた研究が予定されている。 [img-10]


[img-10] 構造検証:欠損部の検出手続きイメージ、接合部耐力の把握実験、非破壊での解体木材強度推定の仮説

《デザイン/加工/組み立てシステムのオープンソース化》[2025年度~]

Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersのデザイン/加工/組み立てシステムで検証したノウハウを、他プロジェクトでも利活用可能なかたちにしていく為には、実際にチーム外の設計者がプログラムにアクセスして、比較的容易に利用できる体制を構築する必要がある。具体的には、

  1. 3Dスキャンした材のスキャンデータをCSVフォーマットのリストと紐づけて管理する
  2. 構造モデルへのスキャンデータの割り当てを行う手続きを標準化し、何を気にしてどのような調整を行えばよいかを一定の型に沿って記述して変数として記録できる仕組みをつくる
  3. また一本一本の材調整をCSVフォーマットに紐づけることで設計対象全体の管理についても一括して行う
  4. 設計が完了した後に個別の材加工の際にこれらの管理情報をいつでも呼び出しては、加工に利用できるかたちとする

ことをシステム化の手続きとして取り組んだ。 [img-11]

そこで2025年度以降、一連の手続きのパッケージ化をさらに外部の利用者を想定して進め、デジタルデザインの先駆的試みが盛んに取り組まれているスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)が提供するオープンソースプラットフォームCOMPASへの公開を第一ステップとして、システムの共有知化を模索している。


[img-11] 部材管理・位置調整・接合部生成及び加工に際しての呼び出しシステム

《Case-2 一本柱と片持ち棚―現場手加工と機械切削の融合、地域内資材循環へ》[2025年度~]

2024年度8月末の大学内プロトタイプ建設を経て、2025年度にはしぼり丸太で知られた北山杉の産地でもある京都市北区の山間部、北山の集落に位置する北山ホールセンターでの小さな軒先改装の試みが予定されている。

本建物の軒先は、中間期には周辺の山の眺望を眺めつつ屋外作業できる絶好の場だが、既存下屋の廊下部分だけでは作業場として不十分であり、また作業に必要な物資が軒下に溜まっている状況を緩和する為、作業場の拡張と活動を邪魔しない天井収納の増設を計画した。柱/基礎数を限定し、水平面はすべて柱から持ち出す片持ち棚で構成した。 [img-12]


[img-12] 一本柱と片持ち棚:図面(左上)、パース(右上)、地域資源からの材料群イメージ(下)

Adaptive Design & Assembly System Utilizing Reclaimed Timbersのシステム開発の観点から重要なトピックは二点。
一点目は改装で必須となる現場加工をいかに工場での機械切削と統合するかであり、ここでは未熟練工でも丸太の現場加工を実現できるようなARでの支援・可搬ロボットアームによる現場加工を検討している。接合部形状は、現状でも機械切削と手刻みの双方を想定した形状で検討されているが、具体的な支援の過程で接合部自体のより細かな検証も実施する。 [img-13]

二点目は地域内の資材循環の試みだ。解体木材の利活用では、大規模な倉庫保管や広域流通を伴うほど、対象は価格帯の高価な材に限定されていく。ここでは、地域内にだぶついているストック材、増え続ける空き家の解体木材でも中サイズのものに対象をしぼり、具体的な資材調達の実践をとおして、地域内での中小規模の資材循環に付随する課題と利点を明らかにする


[img-13] 機械加工と手加工のハイブリッド

設計
木内俊克、バルナ・ゲルゲイ・ベーター、戸村陽、岩見遙果、近藤誠之介、西村穏(以上、京都工芸繊維大学)
基本設計・モックアップ製作
Cowen Phoebe Columbine、柏木裕太、近藤誠之介、松嶋和伽、西村穏、大橋海斗、芝氏大樹、Vom Stein Laura Tabita、Marianna Angelini、Leona Borkeloh、Mathieu Gourbeyre、松本茜、Oliver Nicol、Yan Przybyszewski、Edin Smajic、Jonas Stappers、谷口愛理(以上、2023年度京都工芸繊維大学スタジオ修了学生)
中庭マスタープラン設計
長坂大(京都工芸繊維大学)、京都工芸繊維大学長坂研究室
構造実験協力
満田衛資、村本真、澤井伸吾(以上、京都工芸繊維大学)、京都工芸繊維大学構造系研究室
部材3Dスキャン
バルナ・ゲルゲイ・ペーター、西村穏、岩見遙果(以上、京都工芸繊維大学)
設計協力
本間智希(北山舎)
構造設計協力
満田衛資(京都工芸繊維大学)、京都工芸繊維大学構造系研究室
動画撮影
駒井涼(KOMA)
部材加工・建て方
木内俊克、バルナ・ゲルゲイ・ペーター、岩見遙果、水谷泰平、中原稜将、近藤誠之介、西村穏(以上、京都工芸繊維大学)、岩田裕里(SCI-Arc)
2023年度京都工芸繊維大学スタジオ共同指導
Matthias Kohler, Fabio Gramazio、Daniela Mitterberger、Jonas Haldeman (以上、ETH Zurich)
2023年度京都工芸繊維大学スタジオ技術協力
Thomas William Lee (Aarhus School of Architecture)
2023年度京都工芸繊維大学スタジオテクニカルレビュー
Ng Charmaine(京都工芸繊維大学)
機材協力・敷地点群データ提供
京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab
解体木材提供
魚谷繁礼建築研究所施主、本間智希(北山舎)